しょうゆがいろいろします

いろいろするよ

座席鉄の教科書 ① 基本知識編

起立、礼。

着席。

おほん、えー、わたくしが今年度の座席鉄の授業を担当いたします、鉄道科の小柚(しょうゆ)と申します。どうぞよろしく。

えーそれでは早速最初の授業に入って行くのですが、...えー、みなさん。鉄道の列車に乗る時において一番重要な事とは、何だと思いますか?

はい。そこの君。

あー、そうですね、車両の外見も確かに大事ではあります。しかし、外見を気にするのは乗る前と降りた後のわずかな時間だけです。乗車中はずっと車内にいるわけだ。

はい、後ろの席の君。

...さすが、理解が早いですね。

そう、座席、ですよね。余程混んでいる時でない限り、基本的には座席に座って乗車時間を過ごすことになる。だから私は、座席こそが列車の乗車において最も重要だと、そう思います。

えーすみません、前置きが長くなってしまいました。では、教科書を開いてください。

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ここで謎の授業風の茶番は終わりです。長々とやってすいませんでした。

さてさて、しかしこの教師(?)が言っていたこと、これは私の考えそのものです。座席は鉄道の要素として欠かすことができず、そして一般の方々の想像以上に奥深いのです。

というわけで、旅行記の執筆が進まないので穴埋めとして座席鉄の素晴らしさをより多くの人に広めるため、本企画「座席鉄の教科書」はスタートしました。

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それではまず初回である今回は、座席の基本要素について解説していきます。

こちらはどこにでもありそうなリクライニングシートです。E217系グリーン車2階席のものになります。いろいろ書き込みがしてあるので、ひとつずつ見ていきましょう。

【座 面】

座席を構成する最主要パーツです。座面がない座席は座席ではありません。いや当然か。

みなさんが座席に座るとき、座面の硬さを気にすることがあると思います。座面の硬さは主に材質によって決まります。

例えば、205系などでみられるバインバインと跳ねるような座席はバネが、209系のような硬い座席はウレタンなどの化学繊維のかたまりが、E233系のような跳ねはしないけど柔らかめな座席にはSばねという特殊な物体が入ったクッションが、それぞれ使われています。

列車に乗っているとたまにぶっ壊れている座席がありますよね。そんな座席をそっと持ち上げてみると内部構造が分かることがあります。ぜひ試してみましょう。

【背ズリ】

いわゆる背もたれです。なぜズリと言うのかはよく知りません。そんなズリズリしてる(?)イメージでもないですし...。

背ズリは座面に比べると注目を浴びることが少ないですが、実は座面以上に背ズリの形状というのは重要じゃないかと私は思います。せっかく座面が柔らかくても、背ズリの形状が適当だとちゃんと深く腰掛けられなかったり、特に左右方向への揺れが大きいロングシートでは体重が支えられなくて辛い思いをしたりします。

そんな問題を解決するために最近増えているのが、ハイバックロングシートです。

こちらは東急2020系のロングシートです。明らかに背ズリが高いのがわかりますよね。実際に座ってみると、普通のロングシートがせいぜい腰あたりまでしか支えられないのに対し、この座席は肩まで支えてくれます。そのおかげで体の揺れが減り、快適に過ごせるのです。

東急は近年ハイバックロングシートを大量導入しています。1編成全席ハイバックのこともあれば、増結中間車だけにある場合もあります。東急に乗る時はハイバックの車両を探してみるといいかもしれません。

なお東急以外では、京成3100形、京阪8000系などで採用されています。また、デュアルシートのロングモードもある意味ハイバックロングシートと言えますね。

ヘッドレスト

背ズリよりさらに上の、頭をのせる部分です。ヘッドリネンといって布がかかっていることも多いです。リネンがあると座席の見た目が引き締まって見えますよね。見えませんか?

さらに最近は、ただ布をかけるだけでなく、可動式のをつけた座席も増えています。特急のグリーン車などの高級座席ならほぼ必ずついていますし、普通車でもJR北海道JR東日本を中心に設置されつつあります。

画像はE353系普通席。枕があると、人体で最も重い部分である頭の重さを預けられるので、首の疲れが取れます。さらに可動式なので自分の好みの位置に調節でき、全員が快適に過ごせるというメリットもありますね。

【アームレスト】

いわゆるひじ掛けです。その中でも、2人掛け・3人掛け席の外側にあるものをサイドアームレスト、座席と座席の間にあるものをセンターアームレストといいます。

特にリクライニングシートにおいては、サイドアームレストはリクライニングのボタン・レバーがついていたり、車両によっては収納型テーブルがあったりします。

「ひじ掛けの奪い合い」は、鉄道オタクに限らずよく話題になりますよね。近鉄の一部特急車や、グリーン車等において横幅が広くなっていたり席が分割されていて余裕がある場合を除いて、センターアームレストがどちらの人の物なのかというのは悩ましい問題です。あるネット記事には「窓側が上座だから窓側が使うべき」などと意味不明な理論が展開されていたり、一方別の記事では「居住性の悪い通路側が使うべき」と書かれているなど、統一された基準がありません。

私としては、自席のリクライニングのボタンがついているところが自分のひじ掛けで、ボタンがないところはただの仕切りとしてとらえたほうが良いと思うのですが、どうなんでしょう。

【テーブル】

鉄道座席のテーブルといえば、ボックスシートなどなら窓枠の広い部分、回転クロスであれば背面についているものやサイドアームレストから取り出すものを想像すると思います。

背面のものはそのまま背面テーブル、ひじ掛け収納型のものは明確な呼称がないですがインアームテーブルと言っておきましょう。

特急車は背面テーブルが主流ですが、グリーン車などではシートピッチが広いためにあえてインアームになっていたり、向かい合わせでの使用を想定して背面とサイドの二刀流だったり(JR西日本の特急普通車など)、もとからインアームだけだったり(小田急ロマンスカーなど)、壁についている特殊な形式だったり(小田急ロマンスカー東武特急など)と、なかなかバリエーションに富んでいます。

フットレスト

足を置くための設備です。画像は373系普通席で、フットレストの中でも簡易的な跳ね上げ式・バータイプのものです(体重をかけていないとすぐ戻るので撮影が難しかった...)。

一般的にはグリーン車などの上級座席に、土足用の面と土足禁止の面が裏表になっていて高さが調節できる二面式フットレストが有名でしょう。それの簡易版として上の画像のようなバータイプがあります。

フットレストについての考え方は各社で差が大きいです。画像は東武特急スペーシアのもので、普通席にもかかわらず二面式の立派なものがついています。一方でJR東日本は普通席には一切なし、グリーン車であっても跳ね上げ式しか設置しておらず、かなり貧弱。JR東海は普通席にはバータイプ、グリーン車には二面式とうまく使い分けしています。

【レッグレスト】

鉄道座席のいい写真がなかったので、東海汽船さるびあ丸の二等椅子席で代用します。ごめんなさい。この足元の物体がレッグレストです。フットレストと同じく足を休めるための設備ですが、フットレストは足の裏をつけるのに対し、レッグレストは太ももごと持ち上げます。

JR東日本は先述のようにフットレストが貧弱な一方レッグレストが好きで、新幹線車両のグリーン車にはほぼ必ずレッグレストがあります。しかしJR東海フットレストが充実しているので、レッグレストは東海道新幹線に導入予定の個室のイメージ画像にそれらしきものが確認できるほかはありません。

フットレストとレッグレストのどちらが良いかは個人差が大きく、「レッグレストのほうが足を預けられていい」「レッグレストは太ももが疲れる」「フットレストは自然な体勢で休める」「フットレストは体重を掛けていることに変わりないから意味がない」などいろいろな意見がありますが、どれが正解ということはないです。欲を言えば両方ともあれば好きに選べて最高ですが、さすがに贅沢すぎるよね...

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JR各社の特急車設備設置率をまとめるとこんな感じでしょうか。感覚なのでちょっと違うかもしれませんが、各社の傾向が表れていますね。

◎=ほとんど全て設置、○=半分以上設置、△=半分以下設置、▲=わずかに設置、×=一切なし

という感じです。四国は△が多くてわかりにくいですが、これはJR四国独自の座席を持つ比較的旧型の特急と、JR東日本設計の座席を持つ比較的新しい特急が混在しているからです。

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いかがでしたか。今回は基本用語を解説できたので、次回はまずボックスシートについて話していこうと思います。楽しみですね。

...えーそれでは少し早いですが、これで授業を終わりにします。はい号令。

起立、礼。

ハイありがとうございましたー。